独立や開業のときに必ず出てくるのが、住所をどうするかです。自宅の住所を使えば費用はかかりませんが、ネットで何かを売るなら特定商取引法の表示で住所を出すことになります。
ただ「住所を借りるかどうか」は1つの判断ではありません。登記・納税地・特商法の表示で、求められる条件が違います。このページでは条文と消費者庁の見解で要件を整理したうえで、費用を年単位で計算できるようにしています(2026年9月4日確認)。
住所は、1か所決めれば済む話ではありません
| 用途 | 根拠 | 実体が要るか |
|---|---|---|
| 法人の本店所在地(登記) | 会社法27条3号・911条3項3号 | 条文に実体の要件なし |
| 個人事業の納税地 | 所得税法15条1号・16条2項 | 原則は住所地(特例あり) |
| 通信販売の広告表示 | 特商法11条6号・規則23条1号 | 現に活動している住所 |
| 古物商などの許認可 | 古物営業法5条・13条ほか | 営業所ごとに管理者が必要 |
いちばん条件が厳しいのは通信販売の広告表示です。登記はできても特商法の表示に使えるとは限りません。順番に見ていきます。
特商法の表示が、いちばん厳しい
条文で「住所及び電話番号」が義務になっています
| 法第十一条第六号の主務省令で定める事項は、次に掲げるものとする。 一 販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号 |
ネットショップに限らず、広告を出して郵便やネットで申込みを受ける形はすべて通信販売にあたります。個人事業者でも、法人と同じように住所と電話番号の表示が必要です。
バーチャルオフィスでも認められますが、3つの条件があります
消費者庁は特定商取引法ガイドのQ&Aで、バーチャルオフィスの住所を表示できる場合を示しています。要点は「借りているかどうか」ではなく、次の条件を満たすかどうかです。
| 満たすべき条件 | |
|---|---|
| 1 | プラットフォーム事業者の住所を表示する場合は、取引の活動がそのプラットフォーム上で行われていること |
| 2 | その住所と電話番号が連絡先としての機能を果たすことについて、事業者との間で合意がなされていること |
| 3 | 運営事業者が、利用者の現住所と本人名義の電話番号を把握しており、確実に連絡が取れる状態であること |
さらに、こう続きます。
運営事業者を選ぶこと自体が、法令を守れるかどうかに直結します。料金の安さだけで選ぶ話ではないのはここです。申し込む前に、特商法の表示に使えるかを運営事業者に確認してください。
私書箱は認められません
郵便が届くだけでは足りない、ということです。「郵便物を受け取れる」と「営業上の活動の拠点」は別だと明示されています。
★住所を表示しない方法が、条文に用意されています
あまり知られていませんが、特商法11条にはただし書きがあります。消費者庁のQ&Aでは、住所と電話番号についてこう書かれています。
つまり「請求があれば遅滞なくお知らせします」と広告に書き、実際に請求されたら出すという形にすれば、常時公開しなくてよいことになります。ただし請求されれば出すことになるので、住所そのものを隠せるわけではありません。
「遅滞なく」とは、Q&Aによれば申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供されることを指します。請求を受けてから何日も止めていては要件を満たしません。
登記と納税地は、要件が違います
登記は、条文に実体の要件がありません
会社法27条3号は定款に「本店の所在地」を記載することを、911条3項3号は登記事項として「本店及び支店の所在場所」を定めています。条文に、そこに実体があることを求める規定はありません。だからバーチャルオフィスの住所でも登記そのものは行われています。
ただし登記できることと、特商法の表示に使えること、許認可が下りることは別です。登記できたから全部大丈夫、とはなりません。
個人事業の納税地は、原則として住所地です
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 所得税法15条1号 | 国内に住所を有する場合 → その住所地 |
| 所得税法16条2項 | 住所地以外に事業場等を有する場合は、その所在地を納税地にできる |
16条2項が使えるのは「その営む事業に係る事業場その他これに準ずるもの」がある場合です。住所を借りているだけの状態がここに当たるかどうかは条文から一義的には読めません。納税地を自宅以外にしたい場合は、税務署に確認してください。
なお開業届の提出期限は、所得税法229条によりその事実があった日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までです。「1か月以内」と説明されることが多い部分ですが、現行の条文はこうなっています。
許認可が要る仕事は、別に確認がいります
古物商許可を例にすると、古物営業法13条1項はこう定めています。
営業所ごとに管理者を置くことが前提の作りです。実体のない住所ではこの要件を満たせないとして、許可が下りないことがあります。条文に「バーチャルオフィス不可」と書かれているわけではなく、運用は各都道府県の公安委員会によります。せどりや物販を考えているなら、住所を契約する前に所轄の警察署に確認してください。
建設業や宅地建物取引業など、営業所の要件が定められている業種も同じです。順番を間違えると、契約したあとで使えないことがわかります。
費用は「月額◯◯円」では決まりません
広告に出ている最低月額は、たいてい年払いの月割です
実際に公式サイトで確認すると、同じサービスでも支払方法で金額がまったく違います。
| 支払方法 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 年間一括払い | 880円 | 10,560円 |
| 単月払い | 3,960円 | 47,520円 |
同じサービスで4.5倍です。広告に大きく出ている月額は年間一括払いを条件にした金額であることが多く、申込画面で毎月払いを選ぶと跳ね上がります。
一方で、年払いは1年ぶんを先に払う契約です。途中でやめても未使用分が戻らないことがあります。事業が続くか読めない時期は、差額と解約条件を並べて決めることになります。
住所だけか、席があるかで桁が変わります
| 形態 | 月額の目安 | 実体 |
|---|---|---|
| バーチャルオフィス(住所のみ) | 550円〜3,800円 | 席はありません |
| コワーキング・フリーデスク | 9,505円〜 | 実際に使える席があります |
| 個室のレンタルオフィス | 30,000円〜 | 専有の部屋があります |
特商法の「現に活動している住所」という要件からすると、実際に席があって仕事をしている場所のほうが、要件の説明はしやすくなります。費用は上がりますが、ネット販売を本格的にやるなら判断材料になります。
あなたの条件で計算する
金額を入れると、年間一括払いと単月払いを並べて、何年でいくら差がつくかが出ます。
住所を借りると、何年でいくらか
年間一括払いと単月払いを並べて計算します
「月額◯◯円」と大きく書かれている金額です。年額の表示しかない場合は12で割った額を入れてください。
申込画面で支払方法を「毎月」にしたときの金額です。年払いの月割と同じなら同じ数字を入れてください。
キャンペーンで0円になる場合があります。保証金(デポジット)は返ってくるものなので含めていません。
転送料が別途実費になっているプランで発生します。重さで変わるため、月にかかるおよその額を入れてください。
使わない場合は0のままにしてください。
- 入会金は初年度だけかかるものとして計算しています。更新料が別にかかる契約では、その分が加わります。
- 保証金(デポジット)は解約時に返ってくるものなので、この計算には含めていません。
- 郵便転送の実費は重さで変わります。ここでは月あたりの概算として計算しています。
- 会議室の利用料など、使ったときだけ発生する費用は含めていません。
- 金額は各社の公式サイトで確認してから入れてください。広告に出ている最低月額は、契約期間や支払方法が条件になっていることがあります。
決める順番
| 順番 | 確認すること | 確認先 |
|---|---|---|
| 1 | 許認可が要る仕事か。営業所の要件があるか | 所轄の警察署・都道府県の担当課 |
| 2 | 通信販売をするか。特商法の表示に使えるか | 運営事業者に確認 |
| 3 | 法人にするか。登記に使えるプランか | 各社の料金ページ |
| 4 | 郵便物をどう受け取るか。転送か店舗受取か | 各社の料金ページ |
| 5 | 支払方法で総額がいくら変わるか | 上の計算ツール |
1と2を先に確認してください。契約してから使えないとわかると、支払った分が無駄になります。
よくある質問
自宅の住所を出さずにネットショップを始められますか
2つの方法があります。1つは特商法11条ただし書きを使い、「請求があれば遅滞なくお知らせします」と広告に表示して常時の表示を省略する方法です。ただし請求されれば出すことになります。もう1つはバーチャルオフィス等の住所を表示する方法ですが、消費者庁のQ&Aが示す3つの条件を満たす必要があります。運営事業者に特商法の表示に使えるかを確認してください。
バーチャルオフィスの住所で法人登記はできますか
会社法には本店所在地に実体があることを求める条文がなく、実際に登記に使えるプランが提供されています。ただし登記できることと、特商法の表示に使えることや許認可が下りることは別の問題です。用途ごとに確認してください。
私書箱ではだめなのですか
通信販売の広告表示には使えません。消費者庁のQ&Aは、特商法の「住所」を営業上の活動の拠点となる場所と説明したうえで、私書箱を表示しても住所の表示をしたことにはならないと明示しています。
古物商許可はバーチャルオフィスの住所で取れますか
古物営業法13条1項は営業所ごとに管理者1人を選任することを義務づけており、実体のない住所では要件を満たせないとして許可が下りないことがあります。運用は各都道府県の公安委員会によるため、契約する前に所轄の警察署に確認してください。
納税地を借りた住所にできますか
所得税法15条1号により、納税地は原則として住所地です。16条2項に、住所地以外に事業場等がある場合はその所在地を納税地にできる特例がありますが、住所を借りているだけの状態がこの事業場等に当たるかは条文から一義的には読めません。税務署に確認してください。
途中で住所を変えることはできますか
できますが、手間がかかります。法人なら本店移転の登記が必要で、登録免許税がかかります。特商法の表示、取引先への連絡、名刺やサイトの修正も発生します。最初から長く使える場所を選んだほうが結果的に安く済みます。
実際に確認できるサービス
下は当サイトが公式サイトで料金を確認したサービスです。特商法の表示に使えるか、許認可に使えるかは、契約の前に必ず運営事業者に直接確認してください。料金と条件は変わります。最新の金額は各社の公式サイトでご確認ください。
| サービス | 形態 | 確認した月額 |
|---|---|---|
| バーチャルオフィス1 | 住所のみ | 年払い880円/単月3,960円 |
| レゾナンス | 住所のみ | 550円〜(ネットショップ向け) |
| アントレサロン | 住所/席/個室 | 3,800円〜/9,505円〜/30,000円〜 |
| リージャス | 席/個室 | 拠点ごとに異なります |
確認先
| 通信販売の広告表示 | 消費者庁「特定商取引法ガイド」通信販売広告Q&A |
| 特商法・施行規則の条文 | e-Gov法令検索 |
| 登記の手続き | 法務局 |
| 納税地・開業届 | 所轄の税務署 |
| 古物商許可 | 所轄の警察署(生活安全課) |
このページは制度の仕組みと費用の計算方法を整理したものです。個別の契約が法令上の要件を満たすかどうかの判断は行っていません。特定の事業者のサービスが特商法の表示や許認可に使えることを保証するものではありません。当サイトは法律事務所・行政書士事務所ではなく、個別の相談には応じられません。内容は2026年9月4日時点で法令および消費者庁の公表資料、各社公式サイトを確認して作成しています。料金は変更されることがあります。
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